活発化する「尊厳死」の議論 法制化とともに求められること



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日本尊厳死協会会員証の裏面には「死期を引き延ばすためだけの延命措置はお断りいたします」などとある(撮影/編集部・澤田晃宏)

1976年に発足した日本尊厳死協会は、終末期医療の事前指示書「リビングウイル」の普及活動に取り組む。協会では尊厳死を「本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断わり、自然の経過のまま受け入れる死」としている。俳優の秋野暢子さん(60)など著名人を含め、会員は11万人を超える。

協会では亡くなった会員の家族へのアンケートも実施している。リビングウイルに法的効力はないが、医療者の約9割がそれを受け入れているという。ただ、医師で同協会副理事長の鈴木裕也さんはこう指摘した。

「たとえ事前指示書が準備されていても、親族の誰か一人でも訴えを起こすと、治療を止めたことで殺人を疑われる可能性がある。現場では、『医療者の免責を認める法律がないから、例えば本人が希望しても人工呼吸器を取り外すことはできない』という声が圧倒的に多い」

尊厳死の法制化を目指す「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」会長の増子輝彦参院議員(70)は言う。

「19年の参院選までは選挙もない。来年の国会での法案提出に向けた努力をしたい」

議連は12年に尊厳死法案を公表している。そこでは、適切な医療を受けても回復の可能性がなく、死期が間近と判断される状態を「終末期」と定義。15歳以上の患者の意思が書面などから明らかで、2人以上の医師が終末期だと判断すると、延命目的の人工呼吸器の装着や人工栄養の補給を始めなくても、医師は民事、刑事、行政いずれの責任も問われない、としている。知的障害などがあり意思表示のできない人は対象としていない。

現在、議連には超党派で衆参166人の議員が名前を連ねている。ただ、05年に発足して以降、一度も法案提出には至っていない。その理由を、

「議連は超党派の集まり。党議拘束はないが、各党、各会派の党内手続きが進まなかった。また、障害者は対象としていないが、それでも法律ができることにより、尊厳死に追い込まれるのではないかという懸念の声が障害者団体などからあることも事実だ」(増子さん)

市民レベルで終末期の過ごし方を考える取り組みもある。

千葉県鴨川市の亀田総合病院では、有志でプロジェクトチームを結成し、地域で終末期医療を考えるワークショップを開いている。疼痛(とうつう)・緩和ケア科医師で、地域医療連携室の蔵本浩一室長(41)はこう話す。

「終末期の医療について医療者主導で話し合いを進めること自体に違和感があった。場合によっては医療者の都合が前面に出てしまう可能性もある。究極的には患者さん主導で自分の意思を伝えることが大切だ」

ワークショップで用いるのが「もしバナゲーム」だ。

4人1組になり、カードが5枚ずつ配られる。カードは全36枚で、「痛みがない」「誰かの役に立つ」「自分の人生を振り返る」「お金の問題を整理しておく」など死に際に必要なことが書いてある。余ったカードを中央に置き、余命半年と仮定してゲームがスタート。手持ちのカードと、余ったカードの中にある自分が大切にしたいと思うことが書かれたカードを交換していき、最終的に残ったカードについてそれぞれが選んだ理由や捨てた理由を発表する。

高齢者だけでなく、地元の大学生もこのゲームに取り組んだ。

「終末期の医療についての『本人の意思』は、声の大きな家族の意向で変わることも多い。選択を迫られてからではなく、元気なうちから将来の意思決定を考える機会をつくり、家族や地域で話す機会をつくっていく必要がある。満足のいく終末期の医療を受けるには、法律や制度を整えるだけではなく、市民レベルの意識も高めていく必要があるのではないか」(蔵本室長)

政府は08年、医師が延命治療などの相談を受ければ診療報酬を加算する仕組みを導入したが、「高齢者は早く死ねということか」といった強い反発を受け、10年4月に廃止。今年4月には京都市が延命治療などへの意思を確認する「事前指示書」を3万部作って配布したが、「国の医療費抑制に同調しているのでは」といった反発が出た。市民レベルの意識が高まっていれば反応は違ったかもしれない。

誰にでも、いつかは訪れる死。その「いつか」を考えることが、「尊厳ある死」への準備になる。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2017年11月20日号




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