安倍政権の継続を選択した衆院選 – BLOGOS



自公の与党で、全体の3分の2を超える議席を引き続き獲得

 10月22日に投開票された衆院解散・総選挙は、7月に施行された改正公職選挙法による衆院小選挙区の区割りの見直しが適用された初の衆院選である。1票の格差が最大2.13倍だった2014年の衆院選を最高裁が違憲状態と判断したことを受けたものだ。

格差は最大で2倍未満となり、小選挙区と比例代表を合わせた総定数は10減し、戦後最少の465になった。さらに、今回の衆院解散・総選挙は、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから実施される初の総選挙であり、約240万人の新たな有権者の行方が注目された。台風21号が日本列島を直撃する悪天候下にもかかわらず、投票率は小選挙区、比例代表ともに53.68%と、戦後最低だった2014年の前回衆院選の52.66%(小選挙区)を上回った。

 衆院選の結果を見ると、自民党が勝利し、安倍政権は一定の信任を得たと言えよう。自民党の議席数は284と公示前の290議席には届かなかったものの、単独過半数となる233議席、さらには安定した国会運営に必要な絶対安定多数の261議席を大きく上回った。

連立政権を組む公明党も29議席(公示前は34議席)と減少したものの、自民・公明を合わせた与党では313議席(公示前は324議席)となり、憲法改正の発議や法案の再可決に必要となる全体の3分の2(310議席)を超える議席を引き続き獲得した。なお、絶対安定多数とは、全ての衆院常任委員会で委員長ポストを独占し、全委員会で過半数の委員を与党が確保する状態を指す。

 野党では、希望の党が50議席(公前は57議席)と振るわなかった一方、立憲民主党が55議席(同15議席)と大きく議席数を伸ばし、野党第1党に躍り出た。共産党は12議席(同21議席)と大幅な議席減となった。なお、野党第1党だった民進党は、立憲民主党、希望の党、無所属に分かれて選挙戦を戦ったが、無所属は22議席(同39議席)だった。

野党の分裂・失速もあるが、景気の好調・北朝鮮の脅威増大等が自民党勝利の基本的背景

 こうした選挙結果をみると、北朝鮮の脅威や少子高齢化に対処するための消費税増税・教育無償化等を掲げ、国難突破解散とネーミングした安倍首相の思いは、一定の評価が得られたということになろう。

自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長は、国難突破解散というより信頼回復選挙だと述べていたが、信頼回復選挙だとしても、森友・加計学園問題への批判や安倍1強に対する批判が大きな風にはならず、安倍政権に対して一定の信任が得られたということができるだろう。このことは、森友・加計学園問題を取り上げて安倍首相批判を展開した共産党が大幅に議席数を減らしたことや、安倍1強批判を展開した希望の党の失速からも明らかである。

 共産党の惨敗や希望の党の不振をカバーする立憲民主党の躍進を総合しても、森友・加計問題の批判はあったが、自民党議席の大幅減とはならなかったと言える。テレビ等では森友・加計学園問題を繰り返し取り上げていたが、専ら、芸能人の素人コメンテーターによる愚にもつかない談議に明け暮れていた。北朝鮮の脅威が増大する中で、森友・加計学園問題の追及に固執する野党を冷めた目で見ていた国民は少なくなかったのではないか。

結局、森友・加計学園問題の本質は、元財務官僚の嘉悦大学教授・高橋洋一氏が著書『大手新聞・テレビが報道できない官僚の真実』(2017年7月刊)で指摘するように、「日本の官僚と官僚機構が持つ巨大な利権構造を図らずも露呈した」ということではないだろうか。

 なお、自民党勝利の背景として、野党の分裂や希望の党の失速を挙げる向きが多い。確かに、それも一因だろうが、自民党勝利の基本的背景として、第一に、景気・企業業績の好調、雇用情勢の好転といった日本経済の好転が挙げられる。

 例えば、10月2日に発表された日銀短観では、全規模全産業の業況判断(DI)が前回調査の6月調査から3ポイント改善のプラス15と、1991年以来、26年ぶりの高水準となった。大企業製造業だけでなく、非製造業、中小企業にも景気回復の裾野が広がっている。景気の回復を映し、雇用情勢も大きく好転している。有効求人倍率は直近の8月で1.52倍と、いわゆる平成バブル期の1990年代前半の水準を上回り、1974年2月以来の高さになっている。つまり、今回の衆院選の結果はアベノミクスへの信任と言えよう。

 自民党勝利の第二の基本的背景としては、北朝鮮の脅威が増大したということである。安倍首相が国難突破解散といったように、国難に対処するには、野党では無理で安倍政権に任せた方が良いとの民意であろう。日本国民は、国難に対処するために政権の安定が必要と判断し、安倍政権の存続を容認したと言うことができよう。

 戦国の英雄・織田信長は「 戦いは戦場で決する部分が3割、後の7割は出撃する前に決まっている 」と言ったそうだ。今回の衆院選も総括すれば、結果論かもしれないが、衆院解散・総選挙が10月22日に決まったとき、自民党の勝利は大方決定していたと言えるのではないだろうか。第一に、上記のような好景気の時の選挙である。第二に、北朝鮮の脅威が増大する国難時下での選挙である。国難時に野党が満足な対処ができないことは、東日本大震災時の民主党政権の対応で明らかである。

 第三に、自民党が最も警戒した小池百合子東京都知事のフランス・パリ出張が10月21~25日に予定されていた。もし、小池百合子東京都知事が衆院選に出馬すれば、最大の支持母体である東京都民からの支持を失う可能性があり、無責任との批判が免れない。衆院選に出馬せず、東京都知事としてパリに出張しても、投票日に党首がいないという異常事態になる。仏紙フィガロは、小池百合子東京都知事を「逃亡中の女王のようだ」と皮肉を込めて報道し、衆院選の「最大の敗者」と指摘している。

安倍首相・自民党にとって、積年の課題である憲法改正へ前進

 衆院選の結果、憲法改正の発議に必要な与党の3分の2議席超が維持された。自民党は、公約で憲法改正を重点項目に格上げし、憲法への自衛隊の明記など、第9条の改正を本命に据えている。憲法改正に対する公明党の立場は自民党と温度差があるものの、希望の党、日本維新の会も憲法改正に積極的な姿勢を示している。

 そもそも、1955年(昭和30年)に発足した自民党は、党綱領に「独立体制の整備―現行憲法の自主的改正、自衛軍備」を掲げている。安倍首相にとっても、憲法改正は積年の課題であったが、これまではデフレに苦しむ日本経済の回復を優先してきた。その日本経済が、10月の日銀短観や有効求人倍率に示されるように一定の成果を得たことで、安倍首相は、いよいよ憲法改正に前進する可能性が高い。

安倍1強が続く影の立役者は、北朝鮮と中国

 衆院選は自民・与党の勝利という結果になったが、安倍1強の継続を選択した民意の背景として、北朝鮮の脅威の増大と中国共産党の存在が挙げられる。北朝鮮の脅威の増大は言うまでもないが、中国共産党の存在と衆院選と同時に行われた中国共産党大会が安倍1強を選択した民意に大きく影響したのではないだろうか。

 共産党が国家より上位に位置する中国では、5年に1度開催される中国共産党大会が、国家の指導体制や基本方針を決める最高決定機関であり、10月18日に開幕し、24日に閉幕した。習近平総書記は、活動報告で「中華民族の偉大な復興という中国の夢」という言葉を何度も繰り返し、「社会主義の現代化した強国を建設する」との目標を示した。党大会では、自らの政治思想を党規約に明記して、毛沢東、鄧小平に並ぶ権威を手に入れた。さらに、自身の2期目(後半5年)の総書記任期を盤石にするとともに、3期目も視野に入れていると言われている。

 北朝鮮の世襲体制、中国の2期10年の総書記任期に比べ、日本は首相が頻繁に変わっている。特に2006年9月まで5年5カ月続いた小泉政権の後は、安倍(第一次)、福田、麻生、鳩山、管、野田と、ほぼ1年交代である。増大する北朝鮮の脅威、中国の強大化に対抗するには、首相が毎年のようにコロコロ代わるようでは到底無理な話である。そうした日本国民の思いが、今回の衆院選の安倍1強の継続をもたらした背景ではないだろうか。安倍1強をもたらしている陰の立役者は、北朝鮮と中国なのである。

(10月24日記)



著者プロフィール
経済・国際問題評論家 吉永 俊朗(よしなが としろう)

1948年福岡県生まれ。九州大学卒。

山一証券経済研究所企業調査部長、山一投資顧問投資戦略部長、

東海東京証券理事経営企画部長、藍沢証券アナリストを経て現職。

著書に「100年たってもアメリカに勝てない日本」他。


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